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【日経BizGate連載】GRIT! やり抜く変革マネジメント 第1回 ~社長の「想い」、伝わっていますか?~

2017.07.14

弊社が日経BizGateに連載している【GRIT! やり抜く変革マネジメント】
変革プロジェクトによっては、数値目標は達成したものの、なぜか本質的な部分の変革は達成されていないケースが多く見れます。
本連載ではそのような「変革の失敗」がなぜ起こるのか?について考察したいと思います。

*本記事は日経BizGateの許可を得て、全文を掲載しています。

 

 コンサルタントのAさんは梅雨が終わりに近づいた7月中旬、3年前まで全社的な経営変革プロジェクトを支援していたクライアント企業の社長を久しぶりに訪ねました。製造業である同社の経営変革プロジェクトは計画通り完了しており、この訪問は仕事ではありません。しかし、Aさんは常々気にしていることがありました。プロジェクトを終えたあと、クライアント企業が持続的に変革を続けているのかという点です。数々のクライアント企業を支援してきたAさんは、それを確認するため、自主的に支援企業を訪問していますが、多くの企業に共通する、ある事実に気づいていました。
 応接室に通されたAさんは、やがて現れたX社長の顔色を見てだいたいの状況を悟ります。電話で今日のアポ入れをしたときもX社長の声にはどことなく、勢いがありませんでした。時節の挨拶のあと、Aさんは本題に入ります。
コンサルタントA:社長、お忙しいところ、お邪魔させていただき、ありがとうございます。プロジェクトが終了して3年が経ちますが、いかがでしょう?

X社長:あのプロジェクトは今でもよく思い出すよ。だが、......

コンサルタントA: (言葉を選んでいる様子を察知して)やはり、プロジェクトが終わったら元に戻ってしまったような状況でしょうか?

X社長:別に、あのプロジェクトを否定するわけじゃないが、前より悪くなった気がしているんだ。

コンサルタントA:具体的にはどのようなところでしょうか?

X社長:リードタイム短縮、納期順守率向上、在庫の削減といった大きな目標を掲げ、大金を使って、プロジェクトメンバーも必死で頑張った。滑り出しは順調だったよ。しかし1年たっても目標には届かなかった。2年目、3年目も同じだ。もし、プロジェクトに費やした時間と金を他の投資に使っていたら、もっと別のことができたのではないかと考えることもある。やるべきことはすべてやったつもりだが、何が足りなかったのだろうか?

 

これは架空の企業の話ですが、これに近い状況の企業は少なくないと思います。当然ながら好ましい状況ではありませんし、企業変革プロジェクトに関わる者としては想像さえしたくありませんが、残念ながら実在します。

近年、多くの企業において、「○○改革」「XXリエンジニアリング」などと呼ばれる、企業変革プロジェクトが実施されています。時代の変化は急激で、変革の必要性は高まる一方ですが、食傷気味の方も少なくないかもしれません。

しかし、これだけ多くの変革プロジェクトが実施されながら、社長が成功と感じるものはあまり多くないのが実情でしょう。変革プロジェクトによって、売上高・利益率・成長率などに関する数値目標を達成したにもかかわらず、「変革が成功したとは思えない」と感じる場合さえあります。
そこで、この連載では、そうした状況をあえて「変革の失敗」と表現し、「変革がなぜ失敗するのか?」という基本的な問いに対する答えを、仮想的な例も交えて提示したいと思います。第1回は変革プロジェクトの「本当の成功」にとって外すことができない、リーダーの「想い」を伝えることの大切さについて考えます。

なお、連載タイトルの「GRIT」は「Guts、Resilience、Initiative、Tenacity(ガッツ・回復力・自発性・執念)」の略で、アンジェラ・ダックワース氏の著書『やり抜く力』(神崎朗子訳、ダイヤモンド社)などで知られるようになりました。筆者も「GRIT」をモットーに日ごろのコンサルティングを手がけています。

 

自信を持って自身がリードした変革が成功したと言えますか?


さて、先ほど「変革の失敗」と表現しましたが、失敗の状況はさまざまです。企業の社長など、変革リーダーの方からよく聞くのは以下のような言葉です。

(1)「設定した目標(KPI:重要業績指標)を当初は達成しました。でも......」
在庫を削減するために、販売と生産部門が連携するプロジェクトを推進。プロジェクトが終了して半年間は在庫が減ったが、それ以降は逆に在庫が増えた。
(2)「新しいITシステムが導入されて対象の業務は効率化されました。でも......」
営業担当者が外回りから戻って書いていた営業報告書や会社で行っていた情報共有の会議による残業を減らすため、情報共有システムの導入プロジェクトを推進。プロジェクトが終了してから残業は減ったが、会社の業績は悪化した。
(3)「経営層は成功したと喜んでいます。でも......」
経営者の意思決定における精度・スピード向上へ、マネジメントレポートを毎日作成する体制の構築プロジェクトを実施。プロジェクトが終了して、経営・マネジメント層は現状をタイムリーに把握できるようになったが、現場はマネジメントレポート作成に費やす時間が増えて本業に支障が出ている。

一方、それぞれの状況を従業員の立場から見ると、以下のような言葉になります。

(1)「結局、設定した目標を達成したのはプロジェクト完了当初だけでした。その後はだんだんギリギリになって今では全く達成できず、ただの努力目標になっています」
(2)「確かに、情報共有システムを導入したおかげで、無駄なメールや、情報共有のためだけの会議は減りましたが、データを入力するのが仕事だと思う営業担当者が増えてお客さんへの訪問が減りました。本末転倒ではないでしょうか?」
(3)「現場は何か良くなったっていう実感が全くありません。そもそも、このプロジェクトを実施した理由が、いまだにわかりません」

 

プロセスは重要だがそれだけでは不十分


自分の会社で実施した変革プロジェクトがこうした状況になった場合、自信を持って「変革が成功した!」と言える方は少ないでしょう。もちろん、自信を持って「成功した!」と言える変革を実現するのはハードルが高いのですが、そのハードルを乗り越えるための基本的な変革プロセスは整理されています。

例えば、リーダーシップ論の第一人者である、ジョン・P・コッター氏の著書『企業変革力』は大変参考になります。同書は、企業の変革において発生しやすい8つの過ちを挙げ、それらを回避するための対応策を8つの段階で定義しています(図表1)。それぞれの具体的な内容は本書を参照してほしいのですが、これらすべてを確実に実行することが、企業変革を成功させるためには、まず必要です。

 
大規模変革推進のための8段階の変革プロセス

1.危機意識を高める
2.変革推進のための連帯チームを築く
3.ビジョンと戦略を生み出す
4.変革のためのビジョンを周知徹底する
5.従業員の自発を促す
6.短期的成果を実現する
7.成果を活かして、さらなる変革を推進する
8.新しい方法を企業ぶんかに定着させる

出展:『企業変革力』(ジョン・P・コッタ―著、日経BP社、2002年)

 

 

ここで指摘したいのは各段階の変革プロセスは、社長の「想い」があってこそ本物になることです。

実際に変革プロジェクトを推進している現場では、思っている以上に、"形だけ"のプロセスになりがちです。例えば「何のためにこの変革プロジェクトをやっているのですか?」という問いをプロジェクトメンバーに投げかけると、「上司に言われたからやっている」「そもそも、何が良くなるかわからないが、決まったことだからやっている」という答えが来る場合がありますが、これは問題です。しかもリーダーである社長には面と向かってそんなことを言わないのでやっかいです。

こうした意識を持つ原因は、プロジェクトメンバーである従業員のわがままや認識不足などにあるでしょうが、すべての原因がメンバーにあると考えて片付けるのはいかがなものでしょうか。

プロジェクトの目的がわからないと発言している従業員を実際に見つけたとき、リーダーは、どうすべきでしょう?「わかる人間だけやればいい」と見て見ぬふりをすればやがてメンバー全員のやり抜く力が弱まるかもしれません。見つけたら、その従業員が理解できるまで、自ら話をしたり、信頼を置いている幹部に対応を指示したりすべきでしょう。

私は、このような従業員の声をキャッチできた社長は、むしろ幸運だと思います。さきほど述べたようにこうしたネガティブな声はなかなか社長に届きません。聞きつけたときは、ぜひ、「なぜ従業員がそう考えるのか?」「なぜ目的が伝わらないのか?」を振り返り、目標や目的を伝えるためのアクションを起こしてほしいと思います。それも単純な数値目標や形式的な目的ではなく、社長の「想い」という形で表現して伝えることが不可欠です。

「想い」とは相手の心に届くメッセージと言い換えてもよいでしょう。単純な数値目標ではなく、例えば「業界や地域で一番の会社になろう」「20年後も繁盛する会社になろう」といった挑戦的なわかりやすい目標です。そして、より重要なことは「想い」を確実に伝えることです。

 

「想い」を伝えるための3つの工夫


「想い」を伝えるには具体的にどのようなアクションが必要なのでしょうか?筆者が知る成功事例をご紹介しましょう。

この企業では、さらなる成長(売上倍増)のため、支社における営業のやり方を大幅に変革しました。「お客様に感動していただく」という「想い」の実現に向けて、顧客満足度やエンゲージメント(ブランドへの愛着度)を高めるようにした結果、売上目標を達成しただけではなく、営業担当者の「考え方」が変わり、持続的な成長を実現しています。この変革プロジェクトではリーダーの「想い」を伝えるために3つの工夫を行いました。

(1)ポンチ絵を描き、繰り返し発信
本社から、営業改革というテーマを与えられた支社では、変革プロジェクトを立ち上げ、改革に必要なアクションに対応して、担当者一人一人が行う活動(タスク)を定義し、それぞれの緻密な実行スケジュールを策定しました。

そして、キックオフミーティングでその計画を関係者に発表する際、リーダーとなった支社長がこだわったことがあります。それは「なぜ、この改革を実施するのか?」を、シンプルに伝えることでした。それまでの経験から、一つ一つの活動が有機的に結びつかないと変革が失敗することを知っていた彼は、「お客様に感動していただく」ために、すべての活動が結びついていることを、ポンチ絵として描き、プロジェクトの期間中、常にそのポンチ絵を使って、一人一人にメッセージを発信し続けたのです。

支店長を集めて行う、月次のマネジメント会議では、自身の経験や他社・他業種の事例をもとにさまざまな角度から、ポンチ絵で言わんとしていること、すなわち「ありたい姿」を発信しました。理解している人にとっては、くどいと感じるぐらいだったそうです。

(2)双方向のコミュニケーション
また、支店長には、「『お客様に感動していただく』ために、自分たちに何ができるか?何をすべきか?」について、それぞれの支店で議論しまとめてきた資料をもとに、マネジメント会議で発表をしてもらい、その内容に対して支社長が考えを述べるといった双方向のコミュニケーションを行いました。ときには、厳しく批判・指導しながら、頻繁に意見交換を行っています。メンバー自身の言葉で語ってもらうことで、各自の理解を深める狙いがあります。

(3)人材とノウハウを持続的な組織に移転
このような地道な努力のおかげで、メンバーは常に目的を見失わず、プロジェクトの目標を達成しました。また、プロジェクト完了後もその基盤を生かして改善を続けています。具体的には、リーダーの「想い」を理解したプロジェクトの中核メンバーが、経営企画部門に配属となり、プロジェクトと同様な活動を続けることで、日々、生じている経営課題をいち早く発見して、関係部門に解決を依頼する仕組みを定着させました。加えてプロジェクトで定義した「お客様に感動していただく」ための業務プロセスについては、定期的なワークショップを通じてさらなる改善を行っています。

この事例でわかるように、変革プロジェクトのリーダーが自身の「想い」を伝える際は、「シンプル」かつ「双方向」であることを心がける必要があります。また、最終的に「想い」を共有した人材をノウハウとともに持続的な組織に移転することが重要です。

変革プロジェクトは一般的に複雑です。アクションプランで定義した、一つ一つのアクションを期日までに終わらせることが自己目的化してしまい、本当の目的を忘れてしまうことが珍しくありません。しかし、このプロジェクトのリーダーは、それを許しませんでした。「何のためにやるのか?」を、リーダーの責任として、伝え続けたのです。

 

すべてのプロセスにおいて「想い」を伝える


いかがでしょうか?私は、このように数値化できない「想い」を伝えることこそ、変革プロジェクトを本当に成功させるための最重要ファクターと考えています。変革プロジェクトを支援するときには、コッター氏が挙げた8段階の変革プロセスに従って、アクションを実行するとともに、「想い」を持続的に伝えるようにしています。

まず、段階1の「危機意識を高める」変革プロセスで、リーダーの「想い」をメンバー全員に伝えます。そこで理解をしてその後の活動を首尾よく進めてくれればよいですが、そうはうまくいきません。段階3で定義したビジョンと戦略を、段階4で周知徹底するとともに、各変革プロセスにおいて「想い」を改めて伝える努力と行動が必要です。リーダーの「想い」を、マネジャーやメンバーが伝道師となって、プロジェクトの枠を超えて組織の隅々まで伝えていくような状態を目指します。

みんなが「想い」を一つにして、目標達成に向かってまい進する――そんな会社・組織であれば、従業員が高いモチベーションを持ち、業務の生産性も上がり、持続的に業績が向上することは明らかです。

変革プロジェクトを推進すると、その過程で「メンバーである従業員が成長する」効果も期待できますが、その際も社長の熱い「想い」が不可欠です。「想い」に共感し、従業員全員が自分のこととして変革に取り組んで目標を達成した暁(あかつき)には、従業員が一まわりも二まわりも大きくなることは間違いありません。その従業員の成長も、リーダーが変革プロジェクトで求めていることではないでしょうか?

もし、このような変革プロジェクトを推進した方に、冒頭に行った質問「自身がリードした変革が成功したと言えますか?」と尋ねたら、「Yes!」と答えるでしょう。そして、「社長の想い、伝わっていますか?」という質問にももちろん、「Yes!」と答えるはずです。

 

出展:日経BizGate 2017年7月14日掲載記事

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