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【日経BizGate連載】GRIT! やり抜く変革マネジメント ~熱い「想い」は科学的に変革へつなげよう!~

2017.09.05

【日経BizGate連載】GRIT! やり抜く変革マネジメント ~社長の「想い」、伝わっていますか?~

弊社が日経BizGateに連載している【GRIT! やり抜く変革マネジメント】
変革プロジェクトによって数値目標は達成したものの、なぜか本質的な部分の変革は達成されていない。
本連載ではそのような「変革の失敗」がなぜ起こるのか?について考察したいと思います。

*本記事は日経BizGateの許可を得て、全文を掲載しています。

社長の熱い「想い」だけでは変革につながらない


押し寄せるビジネス環境の変化に対応するため、企業にはビジネスや組織を柔軟に変革する能力が求められていますが、ビジネス環境が変化するスピードは年々速くなっています。社長をはじめとする経営陣の熱い「想い」をビジネスや組織の変革に結びつける際に時間がかかっていてはライバルに後れを取ったり、業界再編の波に飲み込まれたりするかもしれません。

また、せっかく熱い「想い」を持っている社長の方々の中に、その「想い」を具体的な変革活動に結びつけられない方が少なからずいらっしゃいます。相談に来られたときに理由を尋ねると「何をしたらよいのかわかりません」「担当者はアサインしたのですが、誰も動きません」といった返事がきます。

こうした事態を防ぐには、どうすればよいのでしょうか?

連載第1回「社長の『想い』、伝わっていますか?」で説明したように、変革のハードルを乗り越えるための基本的なプロセスはジョン・P・コッター氏の著書『企業変革力』などに整理されています(図表1)。同氏は、大規模な企業変革において発生しやすい8つの過ちを回避するために8つの変革プロセスを定義しました。変革を本当の成功に導くためにはそれぞれを確実・迅速に実行し、科学的に変革へつなげる必要があります。
大規模変革推進のための8段階の変革プロセス

1.危機意識を高める
2.変革推進のための連帯チームを築く
3.ビジョンと戦略を生み出す
4.変革のためのビジョンを周知徹底する
5.従業員の自発を促す
6.短期的成果を実現する
7.成果を活かして、さらなる変革を推進する
8.新しい方法を企業ぶんかに定着させる

出展:『企業変革力』(ジョン・P・コッタ―著、日経BP社、2002年)

さらに、これも連載第1回で指摘しましたが、変革のプロセスは、社長が思っている以上に、"形だけ"のものになりがちです。変革の"規模"は年々大きく難しくなり、変革の"頻度"も増えていますので、世に「変革の失敗率は約70%」といわれているのもうなずける部分があります。

そこで、ここでは図表1に挙げた8つの段階から、規模を問わず、どの変革においても重要なものとして「ビジョンと戦略を生み出す」「変革のためのビジョンを周知徹底する」「従業員の自発を促す」「新しい方法を企業文化に定着させる」の4つを選び、そのポイントを詳しく見ていきましょう。変革を成功させるために、社長の「想い」は重要ですが、「想い」だけが空回りすることも避けなければなりません。

「ビジョンと戦略を生み出す」プロセスのポイント


「ビジョンと戦略を生み出す」プロセスでは、変革後のあるべき姿である「ビジョン」を描いて、ビジョンの実現に向かう道筋や方法を「戦略」として策定します。

まずビジョンとは何でしょうか?先に挙げたコッター氏の著書では「ビジョンとは、将来のあるべき姿を示すもので、なぜ人材がそのような将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、あるいは暗示的に説明を加えたもの」と定義されています。

ここではビジョンを、変革に向けて社長の「想い」をより具体的にしたものと考えればよいでしょう。「業界で一番の会社になろう」という「想い」を持っていれば、「業界でトップシェアを持つ製品・サービスを開発して地域社会の発展に寄与する」といったものがビジョンになります。

社長や経営陣のみなさんはビジョンを整理できているでしょうか。社長の「想い」を実現するために、まず変革のリーダーである社長自身がビジョンを正しく描く必要があります。

また戦略とは、ビジョンを実現するまでの道筋を示すものです。おおまかな方針でよいのですが、ビジョンが実現できそうだと感じるレベルのものを示す必要があります。戦略として、組織変革を行うのであれば、組織の統合で実現するのか、分社化や企業買収で実現するのかなど、あるべき姿の組織をどのように作るのかまで示します。

ただし、ビジョンと戦略を描く際にはいくつか注意点があります。

例えば、実際の変革プロジェクトで、社長などリーダーの方に「どのように自社を変えたいのですか?」と質問すると、「機能型組織からプロジェクトベースの組織に変更したい」「この業務ソフトウエアパッケージを導入して生産部門の業務プロセスを変えたい」といった返事がくることがあります。

これら「プロジェクトベース組織への変更」「業務ソフトウエアパッケージの導入」は変革の手段であって、変革の最終ゴールではありません。

私も「機能型組織からプロジェクトベースの組織に変更したい」という相談を多くいただいた時期がありました。機能型組織は、固定的な営業、生産、研究・開発部門によってビジネスを行う体制を指し、ビジネス環境の変化に追随しにくいと言われています。そこで、商品やサービスの企画単位で開発から営業までの機能を横断的に備えたプロジェクトベースの組織に変え、一気通貫かつ柔軟な組織にしたいという要望でした。

当然ながら、プロジェクトベースの組織では、プロジェクト計画、実施、課題管理、リスク管理などのプロジェクトマネジメント活動が業務プロセスになります。また、役割と責任も、機能型組織の「部長」「課長」などから、プロジェクトベース組織の「PM(プロジェクトマネジャー)」「PL(プロジェクトリード)」などに変わります。

でも、そこで「そもそもプロジェクトベースの組織にする理由は?」ともう一度、自問してみてください。すると、社長や経営陣にとってより重要な目的は 「プロジェクト単位で収益が把握しやすくなり、投資判断を明確にできる」や「企画・開発から営業までの状況を正確に把握できる」といったより深い理由があるはずです。それらが実現できれば手段はなんでもよく、場合によってはプロジェクトベースの組織への移行より適したものがあるかもしれません。

このようにビジョンと戦略を描く際には、多角的な質問を繰り返して、磨き上げていく必要があります。ビジョンと戦略を描く際に行うべき、主な質問を以下に挙げましょう。

  • 変革後のあるべき姿はどのようですか?(Vision)

  • 変革が必要な理由は?(Why)

  • 今、変革を実施しないとどうなってしまいますか?(危機感)

  • 変革で何が変わりますか?何を変えますか?(What)

  • 目標と達成時期は?(ゴール)

  • 影響が発生する組織やグループは?(重要なステークホルダー)

  • 変革による組織へのリスクは?(変革リスク)


ビジョンが単なる手段を描いたものなのか、より適した手段があるかどうかなどを確認する際は、「変革が必要な理由は?(Why)」という質問が役立ちます。例えば「プロジェクトマネジメントツールの導入」はビジョンではありません。「変革が必要な理由は?」という質問の答えは、「効率的に新製品開発プロジェクトを推進する体制に変えなければ、メーカーとしての未来はない」などになります。間違っても「他社がプロジェクトマネジメントツールを導入したから」という答えにはならないはずです。

「変革による組織へのリスクは?」という質問は、磨き上げた戦略を策定する際、それこそ熟考してください。ここでいうリスクは、「変革リスク(チェンジ・インパクト・リスク)」とも呼ばれるもので、いわば予想される変革の副作用です。「リスクなど特にありません」と答える社長の方もいますが、変革によって組織や仕事の進め方が変われば、従業員の役割や責任が変わります。必ず何か起きると考えて洗い出しましょう。

ビジョンと戦略を磨き上げたら、経営陣や従業員などと共有します。磨き上げたビジョンや戦略には会社が目指すべき未来の姿と実現の道筋があります。それを見れば、経営陣や従業員の中から「仲間」が必ず出てきます。

変革リスクを軽く見てはいけない


「変革リスク」は非常に重要なので、少し深く掘り下げて説明しましょう。これは変革成功の要(かなめ)になるもので、「変革とは、変革リスクに対処することだ」といっても過言ではありません。

変革リスクには、従業員レベルの「心理リスク」と組織レベルの「環境リスク」の2種類があります。前者については、多くの書籍や記事(筆者の記事「『腹落ちしてない従業員』は、すぐ変革を忘れる」)で語られているので、ここでは後者の「環境リスク」について説明します。

変革では、程度に大小の差はありますが、組織内の幅広い領域に影響が及びます。ビジョンや戦略、組織体制(役割責任とそれに伴うスキルを含む)、管理の仕組み(ビジネスプロセス、ルールなどを含む)、人事制度、経営層の行動などです。こうした従業員の外に原因があるリスクが「環境リスク」です。

環境リスクが顕在化すると、変革が失敗することもあります。ビジネスとITが一体化した昨今、業務ソフトウエアを使用して変革を行うケースが増えていますが、環境リスクへの対処を怠ると、業務ソフトウエアを導入したにもかかわらず、誰もそれを業務で活用しないといった事態に陥ります。

例えば、顧客管理ソフトウエアを導入して全社で顧客情報を共有するプロジェクトでは、システムが完成しても、誰もそのソフトウエアに顧客の情報を入れようとせず、以前と同じように部門ごとに顧客情報をファイルで管理するといったケースがあります。原因は「部門ごとに売り上げを評価する」という評価制度で、社内の他部門に顧客が流れ、自部門の評価が低下することを現場が恐れたためでした。

また、顧客管理ソフトウエアを利用する際には、新しくITのスキルも必要になりますが、努力してITのスキルを身につけても、人事評価に反映されないため、従業員にITスキルを身につける気持ちが出ないことも多々あります。

変革を行う際は、こうした「環境リスク」と、従業員レベルの「心理リスク」を事前に洗い出して対処することが不可欠です。「誰が変革に抵抗するのか?」「抵抗する原因は何であるのか?」「組織の何に影響が出るのか?」「リスク対策として何を準備しておかないといけないのか?」――社長をはじめとする経営陣の方々は、自社のことなので、こうしたことはわかっているかもしれませんが、問題が発生してから右往左往しがちです。

それは、過去の経験の延長で、変革リスクを軽く見て、うまくいくはずだと思い込んでいるためです。幅広い変革リスクについて、わずかでも顕在化しそうなものを前もって診断・洗い出ししておけば、変革によって問題が発生しても想定内のことなので、あわてることはありません。

「変革のためのビジョンを周知徹底する」「従業員の自発を促す」プロセスのポイント


「変革のためのビジョンを周知徹底する」とはコッター氏の著書では「ビジョンに示された目標と方向について共通の理解を持つ」こととされています。また、「従業員の自発を促す」はコッター氏の著書では「変革ビジョンの推進を妨げる障害をできる限り取り除くことによって、数多くの従業員が必要アクションを取れるようにエンパワーしていく」ことです。それらを実現する際には、「変革コミュニケーション」が重要になります。

変革コミュニケーションは、場当たり的ではいけません。事務連絡であってはいけません。変革の実現をいっしょにサポートしてくれる従業員を育てる活動と言えるでしょう。

変革コミュニケーションでは、ビジョンを中心に伝えて変革に共感してもらい、変革のゴールに向けて従業員自ら動いてもらうことを目標にします。詳細は、やはり筆者の記事「『腹落ちしてない従業員』は、すぐ変革を忘れる」を参照いただければ幸いですが、簡単にまとめると以下のようなことです。

例えば、セールス系の業務ソフトウエア導入により、業務プロセスを変える際の変革コミュニケーションを考えましょう。この変革コミュニケーションのゴールは、従業員が業務ソフトウエアをベースに仕事することを当たり前だと感じてもらうことです。

そのために、「従業員にどんなメッセージを出せばよいのか」「いつのタイミングで出していけばよいのか」「誰から発信すればよいのか」「どんな形式で発信すればよいのか」などを十分に考え、計画して確実に実施していく必要があります。メッセージは、従業員が業務ソフトウエアを利用するメリットを感じられるものにするとともに、従業員が業務ソフトウエアの利用に負担を感じないよう従業員の心の準備度合いまで考慮して発信することが理想です。

また、変革コミュニケーションでいう「コミュニケーション」は、電子メールや会議体で実施される活動のみを指すわけではありません。変革活動そのものへの参加機会の提供、意見提供、コーチング、ディスカッション、トレーニングを中心とした新たな業務の体感といったやりとりすべてを指します。

「新しい方法を企業文化に定着させる」プロセスのポイント


「新しい方法を企業文化に定着させる」プロセスは、コッター氏の著書では「企業の中核的な文化に新しい実践を深く根付かせる」「場合によってはこれまでの企業文化を変えていく」こととされています。

残念ながら失敗する変革プロジェクトの多くは、手段の導入・構築で終わってしまいます。従業員に新しい制度、仕組み、ルール、ITが提供されるのですが、本当の変革はその後であることを忘れてはいけません。新しい制度などが全業務に定着して、そのビジネス的な効果がきちんと現れるところ、さらには社長が交代しても変革前の状態に戻らないところまでが変革です。
ビジネス的な効果が現れない場合、従業員の「心理課題」や「環境課題」(変革実施前の「心理リスク」と「環境リスク」といった変革リスクが、プロジェクト終了後に課題として顕在化したもの)を整理し、適切な対策を継続的に実施します。変革プロジェクトのチームは解散していますが、担当組織・担当者を決めて、しつこいぐらい経過観察および課題への対策を行っていきます。

ここでも変革リスクへの対処は重要です。例えば、従業員への変革コミュニケーションで「心理リスク」を取り除き、従業員がやる気になったとしても「環境リスク」が残っていれば変革は進みません。セールス業務をITで強化したときも、ITを活用することが評価対象になっていなければ、ITを活用しようとする努力は続きません。継続的に従業員からのフィードバックで状況を確認しながら、必要に応じて真摯(しんし)な対応を実施していくのが鉄則です。

変革は必ずマネジメントする


変革を確実・迅速に成功させるには、上記段階の変革プロセスを適切に実行すると同時に、変革全体に対する「マネジメント」活動が重要になります。基本は変革プロジェクトの計画とその実施状況を「見える化」することで、当たり前と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、意外にマネジメントされていません。

そもそも変革のプロジェクト計画を立てない。そのため、人的リソースや予算を確保できない。リソースや予算がないため、変革に向けた活動が腰砕けになる――といったケースが典型的です。

よくあるのは、ITの導入活動、新しい仕組みやルールの構築活動のみがマネジメントされているケースですが、それらは先に述べたように「手段」に過ぎません。

本当に変革をマネジメントするなら、「社長の熱い『想い』をビジョンや戦略にする」「変革リスクを洗い出す」「変革コミュニケーションを行う」「変革プロジェクト終了後の課題に対処する」といったレベルで、「計画」→「実行」→「進捗」→「効果の測定」の流れを確立することが不可欠です。

これら一連の変革活動の計画は、文書として明確化し、従業員の共通認識にします。共通認識化されていないと、みんなの「想い」が1つになれないため、同じ方向を向いて変革活動を推進することができません。

付け加えると、多くの変革プロジェクトの「マネジメント」活動では、ビジョンを決定し、文書化したところで、安心することが多いようです。さらに一歩踏み込んで、文書で定義したビジョンを従業員の共通認識にする活動にもっと重点を置くべきです。

そして、これらの変革活動を実施するため、「変革推進のための連帯チームを築くこと」(強固なプロジェクト体制)は、当然必要でしょう。プロジェクト体制を作る際には以下の要素をチェックしてみてください。

  • 変革活動を実施する際、それを実施する(プロジェクト)体制はありますか?

  • 変革によって目指すべき方向(ビジョン)は明確ですか?

  • そのために何を実施しなければならないかは明確ですか?

  • それらは計画されていますか?

  • リソースをアサインできていますか?

  • 予算は確保できていますか?

  • 変革実現のためのリスクは明確ですか?

  • リスクに対しての対応策は計画されていますか?

  • そしてこれらの活動は、その変革活動を実施する関係者間で共通認識化されていますか?


いずれにせよ、変革プロジェクトの関係者は成功に向けて一枚岩にならなければなりません。イタリア、ルネサンス期の政治思想家マキャベリは、「新しい体制を導入することは、もっとも実現が難しく、最も成功確率が低く、また最もリスクが大きい仕事だと覚悟しなければならない」といったそうですが、それほど難易度が高い仕事なのです。

出展:日経BizGate 2017年8月21日掲載記事

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